「それでも家を買いました」というドラマがかつてありました。
三上博史と田中美佐子夫婦が、バブル経済に振り回されながらも、家を買うまでのお話です。最終話、神奈川の最果ての地にマイホームを買った二人ですが。はてさて、あの二人は、その後のバブル崩壊に伴う地価の下落にどう向き合い、そしてどう乗り越えたのか?……などと、フィクションではありますが、時々妄想に耽っています。
さて。私は、今までに二度、家(マンション)を買いました。
一度目は、1996年、33歳のとき。一人暮らしの女性がマイホームを買うなんて、まだ珍しかった時代。
でも、私にとっては当たり前の成り行きだったように思います。
母がひどく「家」にこだわっていた人で。ずっと貧乏でずっとボロ賃貸でずっと差別されながら生きてきたので、だからこそ「家」にこだわったのです。果たして、節約につぐ節約の末、数千万円を貯金、現金で家を建てました。確か、30歳半ば。母のような水商売人は、現金で建てるより他ないのです。
そんな母を見てきましたので、自分もいつかは家を買うんだろうな……と。ですが、母のようにそれほど執着していたわけではないので、貯金は特にしてませんでした。
でも、30の声を聞き、こんな噂を耳にしました。「年齢がいけばいくほど、独身女の賃貸審査が厳しくなる。最悪、借りられない」と。
これは、やばい。ホームレスになるのだけは勘弁と、33歳の誕生日を迎えるちょっと前の夏に、ほぼ衝動的に、マンションを購入してしまったのでした(幸い、当時は正社員でしたので、住宅ローンを組むことができたのです)。
不動産屋は言いました。「ご結婚の予定は?」。あっけにとられました。なぜ、そんなことを聞くんだと。つまり、その時点ですでに私の中には「結婚」という選択肢はなく、お一人様のライフプランしかなかったわけです。……これはもはや、遺伝。祖母も母も親戚も、お一人様揃い。
なので、今のうちに家を確保しておかなくては……という強い焦燥感に駆られ、家を購入したわけです。
……なんて、いうのは建前で。
私が家を買った本当の理由は。
当時、私は「ジェフ・ベック」先生の熱烈な信者でした。ベック先生に会えるんじゃないかと、何度もイギリスにも行きました。もちろん、会えませんでしたが。
でも、私の妄想は止まりません。
もし、ベック先生が来日したら。もしかしたら、「遅刻、遅刻」と食パンくわえて会社を急ぐ私とぶつかることもあるかもしれない。そして、すっ転んだベック先生に「大丈夫ですか?」と手を差し伸べる私。「よかったら、私の部屋で休んでいきませんか?」
ここまで妄想して。
「はっ、あんな狭くてボロいアパートにベック先生をご招待することはできない!」と焦燥感に駆られ私。
「ベック先生をご招待しても恥ずかしくない部屋に住まなくては!」
……と、部屋を探しはじめたのが本当の理由です。
もちろん、あれから約20年。ベック先生とぶつかることも、お部屋にご招待する機会もありませんでしたがw これから先もw
それどころか、その部屋には、エアコンを設置しに来たおじさんと、排水溝掃除のお兄さんと、消防点検の作業員以外、男性が入ることはありませんでしたw
さて、ベック先生をご招待するために購入したその部屋も、この春に、売却しました。
「買うときよりも、面倒だよ、売却は」
そして、今の部屋を購入したわけです。二回目の住宅ローン。
80歳まで払い続けるローンですw
(つづく)