こんな夢を見ました。

母が亡くなったあと、

母の夢を、見ていません。

弟は、よく母の夢を見ているようですが。

ああ、やはり、母は私のところには来ないんだな。

弟贔屓だったものな。

まあ、いいか。

母と私は相性が悪く、

顔を合わせると喧嘩していたような親子だもの。

夢に出てきたとしても、喧嘩するだけだろう……と。

 

ところで、昨夜のこと。

珍しく、丑三つ時が過ぎても原稿を執筆していて、脳がギンギンしてしまったせいか、

なかなか寝つけませんでした。

朝方になっても眠れない。

まあ、いいか。こんな日もあるよな……

と、ぼんやり天井を眺めていましたら。

どこか遠くで、不快な雑音が聞こえてきたのです。

そう、タクシー無線の声のような。

「……いますか? ……さん、……さん、いますか? 聞こえますか?」

的なことを、しきりに呼びかけている声です。

ああ、もう、うるさいな!

と、起き上がったとき、あれ?と思ったのです。

ここ、前に住んでいた(所沢の)部屋だ。

あれ?と思いましたが、まあ、そういうこともあるのだろう……と、

とにかく、私は、声の元を探したのです。

うるさくて仕方なかったので。

でも、なかなか見つからない。

声をよくよく聞いてみると、

「……さん、……さん、……さん」と、母の名前を呼んでるようでした。

ああ、そうか。母に用事なのか。

「お母さん、お母さん、誰か呼んでいるよ!」と、私は叫んでみました。

が、返事はない。

そうか、出かけているのか。

私は、スマートフォンを取り出し、母に電話しました。

母は、すぐに出ました。

いつもの

「あー、あんた?」という声。

「ちょっと、お母さん、今、どこ?」

「私? 私は、今、待っているところ」

「待ってるって、なにを?」

「うーん、(ごにょごにょ)」

「ちょっと、聞こえない!」

「でも、よかった。電話もらって。最後に声を聞けて」

「最後ってなに?」

「あ、もうそろそろだ」

「だから、なにが?」

「なんか、ごめんね。いろいろと」

「なによ、いきなり」

「私さ、あんたのこと、すこぐ好きだったよ」

「はぁ?」

 

「はぁ?」という、自分の声で目覚めた私です。

そう、私はいつのまにか、夢を見ていたのです。

母の夢を。

母が死んでからは、初めてです。

そして、母と喧嘩していないのも初めてです。

(夢に母が現れると、たいがい、喧嘩してます)

 

そうか。

今まで夢に出てこなかったのは、私が呼ばなかったからなんだな……と。

古典では、その相手が夢に出てこないのは、自分が忘れられているから……という解釈ですが、

冷静に考えれば、自分が見る夢だもの。自分が思わなければ、相手が夢に出てくるはずもなく。

それにしても、最後の母のセリフ。

「私さ、あんたのこと、すこぐ好きだったよ」。

私の願望なのかもしれませんが、

それが聞けて、ちょっと涙ぐんだりして。

 

でも、なぜ、今日なのだろう?

 

と、カレンダーを見たら。

なるほど。明日、四十九日か。

亡くなってから四十九日、閻魔様の最後のジャッジが行われ、

判決が出る日とされています。

そして、そのあと、いよいよあの世に旅立つと。

 

もしかしたら、

最後の挨拶に、夢に出てくれたのかもしれない。

 

そんなことを思いながら、

香典返しの準備やらなんやらをはじめたのでした。

 

追記。

 

なぜ、夢の舞台が、

前に住んでいた所沢の部屋だったのか。

……そうか。今住んでいる自宅、住所は教えたけれど、招いたことはなかったな……と思い出しました。

だから、所沢の部屋だったんだと。

所沢の部屋は母も大変気に入っていて、何度か遊びに来たことがあります。

 

そして、もうひとつ。

母は、こんなことも言っていました。

「だって、私だって知らなかったのよ。それを知ったのは17年前でさ……」

気になります。

〝それ〟ってなに?

17年前になにがあった?

 

最後に、

ミステリー(謎)を残していった母。

やっぱり、一筋縄ではいかない人です。